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改善塾物語1:「改善塾、始まるってよ」~トヨタの自主研究会スタイルの自律改善~

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改善塾

トヨタの「かんばん方式」を開発業務に適用した改善塾の取り組みの物語

トヨタ生産方式の「かんばん方式」はなぜ、トヨタグループ全体に浸透できたのでしょうか。トップダウンではありません。良いモノ・必要なモノを自ら研究し職場に広げる有志の集まり=自主研究会が広げました。伝道という考え方を大切にした活動です。
改善塾は自主研究会のスタイルを取り入れた自律改善展開をするための改善伝道師を養成する取り組みです。
職場に根付いた改善伝道師が改善と高度な管理手法を展開・浸透し、職場の人づくり・組織づくりを行い、業務遂行能力を高めるのです。
改善塾の事例記事⇒ ITPro>IT経営>トヨタ流「改善塾」で社内伝道師を育成

<改善塾物語 目次>
1:「改善塾、始まるってよ」
2:「開発2課、改善職場になるってよ」
3:「開発2課、改善を始めたってよ」
4:「開発2課、つまずいたってよ」
5:「開発2課、やり方変えたってよ」
6:「開発2課、生産性測るってよ」
7:「開発2課、改善ミーティングするってよ」
8:「開発2課、生産性の改善してるってよ」
9:「開発2課、効果あるってよ」
10:「改善塾、終わるってよ」

開校 ~トヨタ生産方式の考え方を元に改善活動をする改善塾のはじまり~

この日は、改善塾の開校日であった。
朝から社長や幹部、そして各部門から選ばれた塾生達が会議室へと集まっていく。ここへ集まってくる人たちの顔には一様に、これから始まることへの不安の色がうかがえた。そして、その中に斉藤も含まれていた。斉藤は、開発部の中核メンバーの一人であり、入社7年目で既にチーム・リーダーを任されている。
彼にとってもこれから自分が何をやらされるのか非常に不安であった。そもそも改善塾の名前自体、昨年末くらいに全社的に行う改善プロジェクトが始まるらしいという噂は聞いていたが、自分には関係ないことだと思い真剣には聞いていなかったのである。それがまさか自分に降りかかってこようとは考えても居なかった。先月末、突然課長に呼び出されて改善塾のメンバーに選出されたことを告げられた。具体的にどんな内容なのか、何をするのかなどを課長に聞いてもさっぱり分からなかった。ただ、業務の改善方法をコンサルタントから教えてもらい、それを実施していく活動であるようだということらしいのである。現在、非常に忙しい状況なので週に1日の時間は確保できないと主張したのだが聞き入れてもらえなかった。

いよいよ、開校の時刻となった。事務局として経営企画部の近藤課長が「おはようございます。これより改善塾を開校します。」と改善塾の開始を宣言した。ざわついていた会議室に一瞬の沈黙が訪れる。全ての目が演台に向けられ、これから始まることを聞き逃すまいと身構える。
事務局の進行により、まず始に社長からの改善塾の開校に向けての思いが語られた。
独立系のシステム・インテグレータである自社の置かれている厳しい経済状況であること。また、慢性化している人員不足によって社員が疲弊していること。これらを打開するためには現在行っている業務の改善し、強い競争力をつける必要があり、それを実行できる人材をつくってことが現在の最重要課題であると考えている。そして、その人材を育成するために改善塾を開校することとなった。
社長の感じている問題は、その最前線で働く斉藤が最も感じていることであった。何とかしなければこの会社、そして自分達の未来は見えてこない事も熟知している。しかし、改善塾がこの問題の解決策であるという部分には懐疑的であった。いままでも改善活動と称していろいろなことに取り組んできた。しかし、どれも画期的な効果は得られず、いつの間にか消えてったではないか、今までの活動と何が違うのか、今度はうまく行くのかという思いが心を過ぎったのである。
そんな懐疑的な思いの中、改善塾の指導を担当するコンサルタントから塾の概要と進め方の説明が始まった。改善塾は、トヨタ生産方式の持つ原理・原則に基づいて改善を進め、自ら考え自ら行動する人をつくる事が目的である。塾生は伝道師と呼ばれ改善を伝道するという役割を担うこと。塾生は自身と直接関係のない職場に対して改善を伝道すること。また、職場に対しての改善の伝道活動は、週1回の改善塾とは別に各自で実施すること。
「えっ!」斉藤は自分の耳を疑った。
「塾生は自身と直接関係のない職場に対して改善を伝道するって・・・そんな馬鹿な!」
そう思ったのは彼だけではなく殆ど全ての塾生が感じたことだった。ほとんど全ての参加者が改善塾で指導された内容は自部門で実施するとだと考えていた。また、そのために週1日もの工数を投入するとも考えていたのである。
「わざわざ、うちのリーダの工数を多く割いて改善塾に参加させるのに、なぜ他の部門の改善を行わなきゃならないんだ!」とどこかの上司から質問が出された。
近藤課長は、こういった反発があることを十分想定していた「今回、改善塾を開校するに当たってコンサルタントからは改善リーダ型のものと改善伝道師型のものの提案を受けたが、現在当社の抱えている問題を打開するためには今までと違ったアプローチが必要と考え改善伝道師型で実施することを判断した。」ときっぱりと言い切った。ここまで言い切られると、それ以上誰も訴追することはできなかった。
続いて、コンサルタントからトヨタ生産方式の原理・原則(DNA)の説明が行われた。ここで話された原理原則は、理念のDNA、行動のDNA、視点のDNA、改善のDNA、管理のDNAの5つであった。いずれもなるほどと思わされるところはあるもののそれをどのように自社へ適応するのかという具体的なイメージは持つことができないでいた。
そんな中、開発3課の広野から「トヨタ自動車は繰り返しで物を作る製造業だからこれらの考え方を実現できるが、自社はSIであり目に見えない知的労働が仕事の大半で、この方法が適用できるとは思えない!」という声が上がった。斉藤も同感であった、考え方は分かるがうちの会社に適用できるとは到底思えなかった。
コンサルタントから「何もトヨタのやっていることをそのまま真似る必要はありません。そもそも、貴社はトヨタではありません。ですからトヨタのやっていることをそのまま真似ても効果は得られません。やり方を真似るのではなくトヨタ生産方式の根底にある考え方を自分達の組織に取り込んでもらいたいんです。やり方なんていくらでもあります。自社の強みとトヨタ生産方式の中にある原理・原則を融合させてより優れた形にしてもらいたいと思っています。」と答えがあり。
「まずはトヨタ生産方式の考え方を元に改善活動を実施していただき、原理・原則を実際の体験を通して理解したうえで、貴社に合った形に変えていっていただきたい。」
斉藤は、なんだか煙に巻かれたような釈然としない気分のままオリエンテーションは終了した。思い気持ちを引きずりながら食堂へ向かっていった。

改善塾 ~トヨタの自主研スタイルの改善伝道~

昼の休憩が終了し、改善塾のカリキュラムが開始される。
塾生と塾生上司、そして事務局とコンサルタントが会議室に戻ってくる。そして、塾生と塾生上司の自己紹介が行われた。見たところ多くの部門で現在中核となっているメンバーが塾生として送り込まれているようである。(社長の直々に号令する活動なんだからこういうメンバーになるんだろうな・・・でも、これだけの面々が参加しているからには、何らかの結果を出さないといけないんだろうな・・・)斉藤は思った。
改善活動の実施方法などについての説明がコンサルタントからなされた。改善には大きく環境改善、設備改善、プロセス改善、作業改善に分けられる。その中でも今回の改善塾では作業改善を主に行うということだった。設備改善やプロセス改善は、取り組む命題もはっきりしており成功すれば大きな成果が得られるものの時間や費用が多くかかってしまう上、失敗するリスクもきわめて高い活動である。それに比べ作業改善は、日々の小さなことをこつこつと良くしていくという活動であるためそれ自体で大きな成果は望めない。しかし、その活動を継続的に続けていくことによって価値観や意識、そして日ごろの行動が変わり着実に成果を積み上げていくことができる。この作業改善が、全ての活動の基盤であるとのことであった。
斉藤は今まで会社で行ってきたことが頭をよぎった。
(確かに、今まで自分達が行った活動は、直接的な成果が得られるものばかりにとらわれ設備改善やプロセス改善ばかりをやってきた気な・・・そして、その結果いずれも立ち消えになってしまっていた・・・)
(今回の方法ならひょっとするとうまくいくかも)という思いが斉藤の心に芽生え始めていた。
続いて、伝道活動を進めるためのチーム編成を行うこととなった。改善の伝道は2~3人でチームを組んで行うのである。全く新しいことに取り組む中で、一人で考えていくには限界がある。そこで、チームを組むことによって問題を共有し、知恵を出し合って解決策を見出していくのである。
チーム編成は、事務局やコンサルから指定されるものと考えていた塾生たちに対して、コンサルタントは「では、皆さんでチームを決めてください」と言った。ほとんど口を利いたことのないような人たちが集まっている中でどうやってチームを決めればいいのだろう。という戸惑いが感じられた。そして、なんとなく開発部門、管理部門、サポート部門などのように同じような職種で塊ができつつあった。
その状況を見てコンサルタントからアドバイスがだされた。「チームはできるだけ異なった経験や感性を持った人たちで組むと良いですよ」
塾生たちは更に困惑の色を強め、チームが決まりそうな気配は微塵もうかがえない。
「皆!いくら話し合ったって結論なんか出ないんだから、とりあえずエイヤーで決めてしまいませんか!?」と斉藤が口火を切った。
「確かにそうだな。どうせお互いよく分からないし考えてもムダだね」と営業サポートの大村が同意し、他からも反対意見は出なかった。
結局、職種の違うものたちがそれぞれ集まり、3人のチームが3つと2人のチームが2つ作られた。斉藤は、大村ともう一人は経営企画の加藤とでチームを組むことになった。大村とは意見が合いそうな気がし、ますますこれからの活動が楽しみになってきた。

そのようなことが有りながら改善塾は終わろうとしていた。
最後にコンサルタントから「改善の伝道先の職場をチームごとに自分達で探してきてください。座学が終わるころまでには一緒に改善活動をやっていきましょうって職場が思ってくれている状態にしてください」という命題をわたされた。
「それも自分達でやるの・・・」「伝道先として自分と直接関係のない職場を自ら探さなければならないなんて・・・」「事務局でもう決めているのではないのか・・・」などという言葉がそこここでささやかれる。
そんななか斉藤から質問がされた。
「自分達と直接関わりのない職場ならどこでもいいんですね?」
「かまいませんよ」
「じゃあ、好きに選べるって事だ!」斉藤と大村は俄然やる気が沸いてきていた。

職場選定 ~改善を理解させ納得させることがスタート~

「大村さんは、どの部署がいいと思いますか?」第1回の改善塾が行われた翌日の定時後、斉藤たちは早速対象職場を探すために顔を合わせていた。
「やはりうちはシステム会社なんだから、まずはシステム開発を行っている部門を対象とすべきだと思うな」
「そうですね。私も開発部門にアプローチすることが良いと思います。」加藤が賛同する。
「開発部門か・・・」開発部である斉藤の顔が曇る。
「開発部門は難しいんじゃないかな・・・どこも忙しいいし・・・」
「忙しいのは分かってるよ。だからやるんだよって言うか、やらなきゃいけないんだよ!」
「まあ、そうだけど・・・」
「とりあえず、当たってみようよ!」
「そうだね・・・」斉藤も渋々承諾し、開発部門にアプローチしてみることになった。
しかし、斉藤が予想したように開発部門へのアプローチは困難を極めたのである。

一週、二週と経過し改善塾では淡々と座学が進められていった。
この2回の改善塾では、改善職場が改善活動を見える化するための改善ボードの作成方法や、組織の中に隠れているムダの抽出と解決策の立案方法など伝道に必要な知識を演習を通して教えられた。
その間、斉藤たちは対象職場探しに奔走した。他のチームでは、もう対象職場の決まり改善ボードの作成を始めているところもあり、気持ちは焦るばかりであった。

そして、更に一週が過ぎた。
「なんとか、間に合いましたね」加藤が言った。
「ああ、なんとかね」木村と斉藤が同時に疲れた声で答える。
3人は、改善塾が開催される会議室に開催時刻より少し前に集まっていた。
「ただ、ようやくスタート地点なんだよな・・・」
「職場を探すだけなのに、こんなに大変だとは思わなかったよ。自分の部門を良くしていくことなんだから皆喜んで取り組んでもらえると思ってた。」
「総論賛成、各論反対。会社として取り組むことは誰もが必要だと思っているけど、自分の所はやりたくない、あるいは他がやった様子を見てからってところだね」
「そんな感じだね」
「まあ、今回断られたところが悪いとは言えないよね。もし、自分の部門を対象にして改善活動しろといわれたらやっぱり抵抗があるかも・・・」
「だから、直接関連の少ない職場を対象職場にするのかな」
「そうかもしれないな」
3人がそんな会話を続けている間に他の塾生たちが続々と会議室に集まってきていた。各チームも同じような会話を展開しているようだった。

改善塾が開始され、各チームからファーストコンタクトの報告が行われていった。
総務課を対象職場としたチームでは、職場のリーダを口説き落としてから一緒に上司に直談判して了承を得たそうである。リーダの意識が高く、非常に順調に活動が展開しているとの報告であった。
医療システム事業部サポート課を対象職場としたチームでは、課長の口添えで職場にアプローチを行ったがかなり苦戦している様子である。現時点では、職場リーダは改善活動に対して明確に拒否の姿勢を示しているらしい。そのチームに対してコンサルタントからのコメントは冷たいものだった。
「っで、どうしますか。その職場をあきらめて他の職場を探しますか。」
誰もが、コンサルタントは何か良いアドバイスをして貰えるものと期待していたのである。
どうするのかは自分達で考え、答えを出していくしかないのである。
そして、斉藤たちのチームが報告を行った。
「ようやく決まりましたか」
「はい」
「散々いろいろな職場に断られたにもかかわらず自分達の力だけで探し当てた。この経験の中で君たちが得たものは大きいと思います。これからの活動も楽しみにしています。」
ファーストコンタクトの報告が始まってから始めてコンサルタントの口から暖かい言葉が漏れた。三人は開始前から持っていた疲れが薄れていく気がした。
報告が終わるとこれから各職場にどのようにアプローチしていくのか、そして、その為には何が必要なのかを検討した。そして、各自が必要と考えたものをツールとして作成し、発表することで知恵を共有した。そうこうする内に一日が過ぎていった。
「報告して、考えて、発表する。かなりハードだな」
改善塾の終了後、斉藤が呟いた。
「くたくただよ。座学で聞いているだっていうのもきついけど、自分達で全て考えるっていうのはもっと辛いな。」大村が弱音をはく。
「でも、これからが本番だからな。気合入れていかないと!」
「そうだな」二人は、それぞれの居室へ帰っていった。

職場巡回 ~すべては現地・現物の現場主義の活動~

数週後、各職場では改善ボードも立ち上がり、改善活動が徐々に動きを見せ始めてきた。
今週から改善塾において職場巡回が開始されることになった。今までは塾生からの報告のみで職場の活動状況が伝えられていたが、実際の現地・現物によって確認していくことになるのである。
まず、コンサルタントから職場巡回の目的の再確認が行われた。
「職場巡回は、各職場の改善活動を活性ささせることが目的です。そのために、改善活動が各職場単体の活動ではなく会社全体としての活動であることを示す。リーダを始め職場の人たちに自分達の活動内容を繰り返し語らせることで自己認識を高めさせる。そして、塾生が現地・現物で活動内容を把握し、より的確な伝道活動ができるようにする。これを常に意識して行動してください。」
そして、職場巡回をより有意義なものとするために巡回のテーマを決めることを指示された。職場巡回においてどのような観点で職場を見るか、また、改善活動をより活性化させるためには職場が今何に気が付いてもらいたいかなどをテーマとして決めるのである。
初めての巡回であるため今回はコンサルタントから“改善活動の方針、目的、目標を語らせ再確認させる。また、その内容に違和感などがないか、メンバーとの意識あわせができているかを確認する”という全職場共通のテーマが与えられた。
職場巡回が開始され、塾生全員で各対象職場を回っていく。各職場では、リーダが自分達の改善活動について方針、目的、目標などを説明してもらい、説明が終わると質問などないか確認の声がかかる。決まって、しばらくの沈黙が訪れる。すると、コンサルタントから「活動を始めてみてどのような感じです?」「目的はどうやってきめられたのです?」などの質問によりリーダの思いを引き出していく。
「質問するのって難しいな・・・さすがコンサルタントだな・・・」一通りの職場を回り、改善塾の行われている会議室に戻る途中で誰かが呟いた。

「職場巡回での君たちの行動はなんですか?あれで職場の活動は活性化しますか?もし、自分がリーダだったらどう思います。」
会議室に戻り、各自が席についてとたんにコンサルタントから叱責が飛ぶ。
「職場のリーダが一生懸命に説明してくれたのに、相槌をうつでもなく、声をかけるでもなく、質問などもまったくない。関心を持って聞いているとはとても思えません。」
斉藤は、唇をかみ締める。言われる事の一つ一つが心に突き刺さる。
「次回以降の職場巡回をどうしていくのか、皆さんで話し合ってください。」そこまで言うとコンサルタントは席に着いてしまった。
皆一様に俯き、会議室に沈黙が訪れる。一呼吸置いて斉藤が声をかける。
「さあ皆、次回からどうしていくか話し合おう!とりあえずこの辺りに集まってくれ!」
と近くの机をいくつか動かして場所を作り始める。大村と加藤もそれを手伝い、徐々に全員が手伝って話し合いが始まった。

話し合いの結果、改善活動への労いの言葉をかけること。必ず何らかの質問・コメントを発言すること。そして、職場巡回に対応してくれたことについてのお礼の意を伝えること。などを決め次回から実施することとなった。
「皆さんは、これから伝道活動を行っていくうえでいろいろなことを職場に対して仕掛けていきます。その際には、何のために、何を狙って行動しているのかを常に意識していてください。そして、行動した後には必ずそれを振り返って思ったようにできたか、できなかった部分はどこかを考え、次回に生かしてください。」
その後、一日緊張した雰囲気が包んだまま改善塾は進行し、職場巡回で見てきた内容から塾生同士で意見交換が行われ、それを元に各チームで今後のアプローチの検討、ツールの作成という活動が行われた。
そして、職場巡回から始まる改善塾のサイクルがこれから5ヶ月間、毎週繰り返されていくのである。

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